もぐおのかばん

もぐおがいろいろ吐露します

ピンチの人にピンチにされる

今週のお題「人生最大のピンチ」

ピンチに陥ってしまった人が、助けを求める。

しかし、その人を助けると自分に被害が及んでしまう。

助けたいけど、助けたくない。

そんな葛藤した状況で決断しなければならないという

ピンチに陥ってしまった。

 

家のピンポンが鳴って、ドアを開けた。

そこには、作業服の二十代くらいの若い男の人が立っていた。

朝から近くで木の伐採作業をしていた。そこの作業員らしかった。

「すいません、この辺にトイレないですか?」

口調は普通だったが、かなり我慢している様子だった。

右の手でお腹を押さえている。

これは絵に描いたようなピンチの状態だった。

 

僕は、戸惑ってしまった。

コロナが流行っているこの時期、見知らぬ人を家に入れたくはない。

ましてや、トイレなど貸したくないことこの上なかった。

なんせ、年老いた母がいる。

この人が、コロナに感染しているかどうかわからないが、

万に一つということがある。感染してから後悔しても遅い。

しかし、ここは、田舎の集落、公衆トイレもコンビニもありゃしない。

「そこらへんでして」なんて、言えるはずもなかった。

目の前にいる男の人は、苦悶の表情を浮かべていた。

もう一刻の猶予もない。判断を迫られていた。

僕も、ピンチに陥ってしまった。

 

考えても答えが出なかった。思わず、出た言葉が、

「良かったら、使うてか?」

相手に判断を委ねるような返事をしていた。

「いいんですか?」

断ることはできない、

「どうぞ、あの突き当りです」

トイレのドアを指さした。

「ありがとうございます」

男の人は、トイレに駆け込んだ。

 

あの男の人はトイレが見つからず、たまらず僕の家に駆け込んだ。

しかし、このご時世「トイレ貸してくれ」とは、言えず、

「トイレがどこかにないか?」と訪ねてきたんだと思う。

出物腫物ところ選ばずというが、場所も時期も悪かったなあ。

 

男の人は、何度もお礼を言って、戻って行った。

僕は、いつもなら、「人に親切にしてよかった」となるところが、

この後の事を考えると、複雑な気分だった。

トイレや玄関の消毒作業が待っているのだった。

 

まあ、仕方ない、母親がトイレに行きたくなる前に終わらせねば!

まず、玄関とトイレのドアと廊下を、アルコール消毒して、

トイレの窓を全開にして換気をした。

次に、便座カバーを外し、便器と床と壁を除菌シートで拭いてから、

アルコール消毒した。

そして、新しい便座カバーを取り付け、スリッパを替えて、

最後に、自分の手を消毒手洗いし、うがいして終了。

これだけやれば大丈夫だろう。

しかし、疲れた。トイレを貸しただけなのに。

コロナ、ほんま、めんどくさいわ。

 

あれから二週間、今のところ母親にも、僕にも異常はない、よかった。

しかし今度、また「トイレ貸してくれ」とやってきたらどうするか?

 

うーん、やっぱり貸してしまうなぁ...