もぐおのかばん

もぐおがいろいろ吐露します

懲りない人 シノさん

勤めていた会社に、シノさんという1つ年上の先輩がいた。

シノさんは、坊主頭で小太りで、親しみやすく

みんなにいじられるタイプの人だった。

そして「力仕事といえばシノさん」といわれるくらい力がめっぽう強かった。

会社で友達の少ない僕でも、親しくしてもらっていた。

 

シノさんとは僕が部署移動になって、同じ作業場になった。

作業場には4つの工程があって、1工程がシノさん、2工程がフクさん、

3工程がヤマさん、そして4工程が僕になった。

 

作業は、1工程から4工程まで流れ作業なので動きっぱなしだった。

同じ作業場でもあまりシノさんとは、残念ながら交流がなかった。

その日の作業が終わって、休憩してる時に少し話すくらいだった。

 

ある日、フクさんのところで僕が、仕事の内容を質問していると

シノさんが目の前を、黒い袋を持って通り過ぎようとしていた。

シノさんは不自然に顔を背けて歩いていた。

それを見たフクさんが、怪しく思って声を掛けた。

「シノ、なにやっとんや、製品が流れてこんがな!」

しばらく、仕事がなくて手待ちの状態だった。

1工程のシノさんのところで、何かあったはずだった。

素通りしようとしていたシノさんは、2つ年上のフクさんを無視できなかった。

「なに、何か用?」

シノさんは、立ち止まってそう答えた。

あきらかに、目が泳いでいた。

 

「シノ、なんかあったんか?」

フクさんが訪ねた。

「ちょっとトラブっとったんやー」

シノさんは、少しキレ気味に答えた。

黒い袋を隠すように持っている様子にピンときたフクさんが言った。

「おまえ、また蛍光灯壊したんじゃねえだろうな?」

 

シノさんの作業している所は、天井が低くて蛍光灯も低い位置に設置してあった。

そして、腰ぐらいの高さの機械の上に1メートル×1メートルの道具を持ち上げて

作業するので、蛍光灯に当たらないように注意しなければならなかった。

しかし、かなり勢い良く持ち上げないと当たることはないはずだったが

シノさんは、一度壊した前科があるようだった。

 

「そんなん、するわけないわ!」

否定するシノさん。

「ほんなら、その袋は何や?」

問い詰めるフクさん。

「なんでもええやんけ!」

「ええことあるか、その袋ふってみろや!」

観念して袋を前に出し、左右にふった。

カシャカシャカシャカシャ......

薄いガラスのこすれる音がした。

「おまえ、やっぱり壊してるやないか!

またアホみたいに力入れて持ち上げたな!!」

フクさんにばれて大目玉をくらうシノさん。

 

それを見ていた僕は思った。

「あんなにすぐばれる噓をつく大人がおるんや」と。

 

シノさんは、「クラッシャー」と呼ばれてることをこの後知った。

入社して7年目のことだった...