もぐおのかばん

もぐおがいろいろ吐露します

やさしい シノさん

昔、働いていた会社にシノさんという1つ上の先輩がいた。

シノさんは人当たりがよく、誰にでも親しく接していた。

そして、力がめっぽう強く「力仕事はシノさん」と言われるぐらいだった。

 

その日も工場の現場で朝から忙しくしていた。

お昼休みのチャイムがなって、作業の手を止めた。

食堂で弁当を食べてから、トイレに向かった。

現場のトイレは昼休みは人が少ない。

そっちに向かっていると、突然シノさんがトイレから飛び出てきた。

「...ヤバイでよ」

シノさんは、そう言ってあたふたとしている。

僕は、思った。

またなんか、やらかしたと。

 

「ちょっとトイレ入らんといて」

シノさんは電話をポケットから出して、どこかへかけた。

「あっ技術係!?トイレが壊れたんや!すぐ来てくれへん?」

技術係とは、工場の機械や設備の修理やメンテナンスを主に請け負っている部署。

シノさんは電話口で散々文句を言われているようだった。

「すんません、よろしくお願いします......。」

電話が終わってシノさんはため息をついてから、

「あのな......」

事の顛末をシノさんが話してきた。

 

シノさんがトイレに入ると、流してないウンチを発見した。

「誰や!流してないのわ!!きったねえなー」と、

シノさんは仕方なく和式トイレのレバーを、倒して水を流したそうな。

しかし、勢い余ってレバーがベキリと折れてしまった。

すると、折れた個所から水が勢い良く噴き出したという。

なぜ、レバーが折れたか問うとシノさんは、言いにくそうに小さい声でいった。

「足の裏で倒した」

 

僕は、トイレのドアを開けて中を見てみた。

水が天井に届くまで噴出して、床も水浸しの状態だった。

僕はそのまま、そっとドアを閉めた。

 

技術係の人が来て、水の元栓を閉めてとりあえず収まった。

しかし、修理は水道業者を呼ばなければならなかった。

しばらく、トイレは使用禁止になってしまった。

今度は面と向かって文句を言われるシノさん。

「お前は、何で足の裏でするんじゃー-----!!!」

技術係の人の怒号が、昼休みの機械が止まって静まり返った作業現場に響いた。

 

和式トイレということもあり、レバーを手で倒すにはかがまなければならない。

かがむと自然とウンチとの距離も近くなる。

トイレのレバーを手で倒すのは、屈辱以外の何者でもなかった。

「ウンチは流すけれど、レバーは足で倒す」

それがシノさんの最大の譲歩だった。

しかし怒りで震えるシノさんは、普通にレバーを倒したつもりが

足の力の加減を間違って、レバーを折って飛ばしてしまった。

他人のウンチを流してあげて、せっかく優しい人で終わるところだったのに、

トイレの破壊者で終わってしまって、誠に残念。

まあ、流してないウンチを無視することもできたけど、それができないのが

シノさんという人だった。(無視した方がよかったが...)

 

気を利かしたつもりが大惨事となって、シノさんはやりきれなかった。

トイレを壊したことをからかわれるたび

「ウンチを流してないヤツがおるからじゃー」

と逆ギレしていた。

 

結局、ウンチ放置の犯人は、誰かわからなかった...