もぐおのかばん

もぐおがいろいろ吐露します

謎の電子音楽

自動車免許の更新の講習を受けるため、警察署へ出向いた。

あいにくの雨で、11月も終わり頃、少し肌寒い日だった。

優良運転者講習やからそんなに長くかからんやろう。

中に入って待つことにした。

 

受付をして教室に入ったら、すでに三人座っていた。

僕は、左側の前から二列目の席に座った。

教室の前方には、教壇があって、その上にはプロジェクターが置かれていた。

教室内も寒かった。

見渡すと一台だけ、家庭用のファンヒーターが置いてあった。

すでに、動いているが、教室内を暖めるには小さすぎた。

薄着で来たのに、少し後悔していた。

 

もう始まるやろうという時、ドカッと音を立てて金髪の作業服の男が、

僕の前の席に座った。イライラしているのか、腕時計をチラッと見ると、

腕組みをして右足を小刻みに揺らし始めた。

「めっちゃ、うっとうしい」

僕は、心の中でつぶやいた。

 

時間になり、講師がやって来た。

講習の流れを説明してから、

「携帯電話、スマートフォンの電源は、講習の妨げになるので、

切るようにしてください。」

と注意をうながした。

切り忘れていたであろう何人かの人が、スマホを取り出していた。

そして講習は始まった。

 

講習が始まって十五分ほどたった、その時

「ピロピロピロピロリー」

どこからか、電子音楽が鳴り響いた。

「誰や、電源ちゃんと消せや。」

そう思いながら、前屈みになった背を伸ばした。

講習は何事もなかったかのように続いた。

 

「ピロピロピロピロリー」

再び講習をさまたげるように電子音楽が鳴る。

僕の前の方から聞こえた。

前に座っている金髪の作業服の男のところから鳴っとんか?

僕は、金髪の作業服の男の後頭部を見ながら耳をすましていた。

「ピロピロピロピロリー」

また鳴った!

確実に僕の前から音が聞こえた。

しかし金髪の作業服の男は腕組みをしたままだった。

「携帯電話鳴っとんのに消さん。どんな神経しとんねん。」

金髪の作業服の男の後頭部をにらみながら、心の中で叫んでいた。

電子音楽はこの後も定期的に鳴り続けた。

 

講習も終わりに近づいた頃、今日、何回目かの電子音楽が鳴った。

その時、この電子音楽に、聞き覚えのあることに気がついた。

「あれっ?どっかで聞いたことある、どこや?」

頭を巡らせた。

 

「ピロピロピロピロリー」

また鳴った、その時、

「思い出した!」

頭の中の霧が晴れたように思い出した。

「このメロディ、エリーゼのためにや!」

そして、ファンヒーターを見た。

ファンヒーターは止まっていた。排気音がしていない。

液晶画面にはエラーコードが出ていた。

給油を現すエラーコードだった。

すべて、謎は解けた。

 

あのファンヒーターは、タンクが空になると、音楽が鳴ってしらせてくれる

機能がついていた。

それで、講習の間に灯油がなくなって、タンクが空になったから、

ずっと鳴っていたんやな。

自宅のファンヒーターと、同じやつやったから、

それで、聞き覚えがあったんやな。。

 

そうか、誰のスマホも鳴ってなかったということか。

金髪の作業服の男、疑ってすまんかった。