もぐおのかばん

もぐおがいろいろ吐露します

ハウスのおじい

近所に長年勤めた会社を定年退職して、畑にビニールハウスを建てて

野菜を育てているじいさんがいた。

「いた」という表現にしたのは、年が明けてすぐに亡くなってしまったからだ。

ハウスのおじいの夢の跡

近所に住んでいた75歳のそのじいさんは、毎日軽トラでハウスにやって来た。

たまに話しかけてくれたり、余った野菜をくれたりした。

親しみ?を込めて「ハウスのおじい」と呼んでいた。

まあ結構ろくでもないことを、ちょくちょくやらかしてくれた人だった。

 

この地域は、野生のシカや猪が出没して田畑を荒らす。

「ハウスのおじい」も自分のビニールハウスを害獣から守るため

セキュリティ強化に乗り出した。

 

第一弾として畑の周りを薄い鉄板で囲った。

しかし入り口は軽トラが出入りするのでそこは何もなし。シカも出入り自由。

それに鉄板の取り付け方が甘いので、風が強い日は鉄板がめくれて

バンバンと音がうるせい!

 

そして第二弾、周りには鉄条網が張られ、ピカピカするCDが所々にぶらさげられた。

入り口の侵入対策として、焼酎が入っていたであろう5リットルのペットボトルに

水を入れて畑の入り口の両端に設置された。

ヤツの中では猫も害獣指定されとるらしい。

 

そしてビニールハウスの強化は、弱点の害獣の侵入対策の補強となった。

そこで「ハウスのおじい」はかなり迷惑なことをやらかす。

ハウスの奥に赤外線センサーを設置したのだった。

センサーは動くものを感知すると音を鳴らして警告するんだが

ふつうに畑の前を走る車や、歩く人に昼夜問わず反応してしまった。

 

反応するとセンサーはピカピカと光りながら大音量で鳴りだす。

牽制「マシンガンの銃声」ダダダダダダダッダダダダダダダッダダダダダダダッ!

威嚇「猛獣の鳴き声」ウオーウオーウオーウオーウオーウオーウオー!!

とどめ「ミサイル発射」ヒューンドガーンヒューンドガーンヒューンドガーン!!!

この3種の攻撃音があたり一帯に響く。

我が家は、ハウスの前の道路を挟んだ目の前。

何かがハウスの前を通るたびにこの音にさらされた。

 

とりあえず様子を見ていたけれど、あまりの音に耐えれんようになった。

「ハウスのおじい」が帰ったのを見て、センサーのところへ行った。

そして地面に転がっている農作業で使う一輪車を立て掛けてセンサーを殺し、

電池を抜いて逆さまに入れてやった。

これでセンサーは沈黙した。

 

「ハウスのおじい」が自分で迷惑だと気が付いたのか、他人に言われたのか

それから音は鳴らなくなって静かな生活が戻った。

 

しばらくしてハウスのセンサーを見に行ってみた。

一輪車はセンサーに立てられかけたままで電池も逆に入って、あの時のままだった。

 

これは、「ハウスのおじい」センサーを付けたの忘れとるな....

 

「ハウスのおじい」が思い出したのかまた音が聞こえてきた。

すかさずセンサーを殺して電池を逆に入れる。するとしばらく鳴らなくなった。

これを三ヶ月に一度のペースで繰り返していた。

 

今はもうあの畑にビニールハウスはない。

我が家の横の溝に軽トラ落としたり、うちの畑に枯れたチンゲン菜捨てたり

いっつも軽トラのギアチェンジが遅くて、低いギアでずっと爆音あげて走っていた

あの「ハウスのおじい」の姿もない。今は草畑が広がっているだけ。

 

今思い出すと笑い話やけど、当時はかなり迷惑やったな。

まあちょっとだけ寂しいかなぁ、ほんまにちょっとだけ。1ミリくらい....